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言葉

2016.03.10 18:11 |カテゴリ:短編コメント(0)

 とりあえず小説を一本。大学の小説生成論という講義で書いたわりと最近の作品です。
 普段はラノベテイスト――つまりはセリフ主体で文章を書いていたのですが、芥川賞受賞作家が講師の授業でしたので、地の文メインの純文学に寄せて書いてみた作品だったりします。

(1500文字程度)



言葉


『あなたの言葉、買い取ります』

 何もかも失った僕に、その看板の文字はとても魅力的に映った。普段なら、絶対に気にかけることもなく通り過ぎる繁華街の路地裏。露天商の主人もゲームに出てきそうな占い師のローブを深く被って顔を見えない、怪しさの塊でしかなかった。これだけ怪しいと逆に目を引くものがあるが、不思議なことに立ち止まる人はおろか、視線をやる通行人もいない。僕にしか認識できていないのだろうか。いや、僕とその露天商が世界から認識されていないだけなのかもしれない。自然と、僕は言葉の世界へと吸い込まれていく。
 言葉には重さがある、らしい。想いが詰まった言葉は重く、しかし、同じ言葉を使えば使うほどにすり減って軽くなる。ただ、発する言葉の大半は元より重みなどない。何も伝わることなく、虚しく、大気を振動させて消えていくだけ。無駄に消費されてしまうなら、売ってしまおう。元々口下手で、人との意思疎通が絶望的に図れない人間だ。そんな人間の軽い言葉なんて、あってないようなもの。適当に頷いていれば、日常生活程度は何とかなる。念のため、千五百文字ほど残したが、あとの軽い言葉は全部売ってしまった。十万円ぐらいになった。
 ほとんどの言葉を失ったところで僕自身の価値は十万に満たなくなっただろう、そう思っていた。五千万円。次に提示された額がそれだ。僕が持つ、重みのある言葉の総額らしい。ろくに自分の意見も言えず、常に人の言葉に従っていた僕にとって、その額は衝撃だった。額の重さに、自分が潰れてしまいそうだった。すぐにでも売り払いたいと思った。諦めていた人生だが、これで余生は何とか過ごせるのではないだろうか。しかし同時に、僕を捨てた世界にささやかな抵抗を示したいとも思った。言葉は三つもあればいい。それ以外はすべて売り払った。それでも二千万もの大金を手に入れた。さて、これから三千万もの言の葉をばら撒こうではないか。

 そこからは、あっという間だった。僕を捨てた会社へと乗り込んだ。今までの僕とは思えない大声で叫んだ。経験したことのないようなくらい注目を浴びた。いつもなら押し潰されそうになる視線も、その時は心地良かった。思いの丈をすべてぶつけたところで、会社を抜け出し、無心になって走り出した。すると、つい昨日まで同僚だった女子社員が追いかけて来て、かっこ良かった、感動した、などと賞賛の言葉を述べてくるではないか。調子に乗っていた僕は今まで言ったことのない気障な台詞を吐こうとした。しかし、慣れていないことはするものではなくて、言葉に詰まり、ちぐはぐでまとまりもない、それを愛の告白と呼ぶならば、末代の恥として語り継がれるレベルの拙さであった。収集がつかず、もう嗚咽混じりの声しか出ず、恥ずかしさで死にたかったが、そんな痴態も彼女の笑い声と笑顔に救われた。僕を受け入れてくれたのだ。
 僕は知らなかった。こんなにも言葉に力があることを。それに気付けた僕はなんて幸運だろう。そして、その価値のある言葉たちを売ってしまった僕はなんて不幸なのだろう。でも、まだやり直せる。手に入れた大金はまだ手元にある。露天商もまだ同じ場所にいた。だが、露天商は買い取った値段よりも高い額を提示してきた。文句の一つでも言おうと思ったが、それ以上に今は言葉が欲しかった。そこで異変に気付く。言葉が出ない。おかしい。まだ重みのない言葉を使い切るほど言葉を発していないし、重みのある言葉だってまだ一つ残っているはずだ。露天商に身振り手振りで訪ねようとも、彼は不敵に笑うだけだった。そこで、僕は止まった世界に、その違和感の正体に気付き、世界から欠落していく。

「僕はこんなにも話すことが好きだったのか――」

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プロフィール

ねっしー

Author:ねっしー
個人サークル『Next Nexus』で活動(予定)
元『それは割れません。』
絵描いたり、小説描いたり、数学やったり、日常のどうでもいいこと綴ったり。


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