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運命の赤い糸

2016.03.10 18:23 |カテゴリ:短編コメント(0)

 もう一本、小説生成論の講義から。課題で提出した作品であり、授業で公開することのなかった作品です。百合なのかヤンデレなのかわからない。

(2500文字程度)

運命の赤い糸


 それは、物心ついた頃には私の左手の小指にありました。
 赤く、可愛らしくリボン結びをして絡まるその糸は、地を伝ってどこかへと伸びています。どうやら私にしか見えていないようで、その糸を追いかけてどこかに行こうとしたとき、パパに怒られたのは良い思い出です。私は、その赤い糸が辿り着く先を見たことがありません。
 ママが言うには、それは運命の赤い糸だそうです。やがて結ばれるべき運命の人に通じているとかどうとか。子供の頃は、白馬の王子様が迎えに来るのを夢見るお姫様のように、心躍らせながら毎日のように小指の糸を眺めていました。しかし、いつまで経っても王子様は現れません。高校生にもなれば、私の指から伸びてだらしなく地を這う赤い糸は、私の気の迷いが産んだ幻想だったんだな、と思うようになっていました。

 受験を控えた高校三年生の夏、東京に行く機会がありました。希望する大学の下見という名目でしたが、田舎者の私は渋谷や原宿を始めとするオシャレな街を散策する楽しみの方が大きかったです。そして、大学訪問を終え、東京観光を楽しんでいたある日、私は異変に気付きました。今までピクリともしなかった私の糸が、私の意図に反して揺れ動くのです。赤い糸の先は人混みに紛れて見えません。しかし、糸は地面に着くことなく伸び、私に鼓動を、熱を、伝えてくるのです。赤い糸を見つめる私の鼓動と呼応し、私自身も熱を帯びていきます。

 これを恋と呼ばずしてなんと呼ぶのでしょうか!

 身体は考える前に動き出していました。普段は引っ込み思案な私ですが、この時ばかりはなりふり構わず人混みを掻き分け、糸を手繰り寄せるよう、いや、文字通り糸を手繰り寄せて、運命を追いかけます。走りながら、普段からもっと体力づくりをしておけば良かったと後悔するばかりです。ようやく、人混みの隙間から赤い糸の先、私とは反対の右の小指に絡むリボンを見つけます。あと少し。残りの力を振り絞って私は手を伸ばします。

「見つけました!」

 ついにその手を掴みます。人見知りで自分から話しかけるのが苦手な私には信じられない行動でした。これが、愛ゆえになせる技なのでしょう。
 それでも息が上がり、呼吸が落ち着くまでしばらく時間がかかりました。もしかしたら緊張で息が乱れていただけなのかもしれません。でも、少しでも早く白馬の王子様の顔を見るために、でも情けない顔は見せないように、今できる精一杯の笑顔で顔を上げます。

「えっと、アンタ、誰?」

 笑顔はすぐに崩れました。
 その反応に対してではありません。誰だって見ず知らずの人に急に手を掴まれたらそういう反応をするでしょう。運命の相手が自分の理想とかけ離れた醜い顔だったから? いえ、そんなことはないでしょう。整った顔立ち。吸い込まれそうな綺麗な瞳。握る手も白く美しく、私よりも少し大きい。茶色に染めているが、手入れが行き届いた綺麗で長い髪。それに反して少し短めのスカート。さらには胸元を強調するかのようにわざと外された第一ボタンと緩んだリボン……。

「……もしかして、女性の方ですか?」

「もしかしなくても女性だよ。というかどう見ても女子高生だろ?」

 その後のことはあまりよく覚えていません。その制服姿の女性にとにかくペコペコ謝って、気付いたら下宿させていただいている親戚の家の布団の中でごちゃごちゃになった感情が溢れだして泣いていました。
 別に運命なんて信じていたわけじゃありません。でも、いつもなら重力に従って大人しくしている赤い糸は、今ばかりは私の意志に反して身体に複雑に纏わりつきます。私は運命に囚われているのでしょうか。これが私の望んだ運命だったのでしょうか。運命の相手とは一体何なのでしょうか。もう何がなんだかわかりません。
 泣くことに疲れ、考えることにも疲れた私は、小指のリボン結びをじっと見つめ、布団の上で横たわりながら小さく呟きます。

「こんな運命なんて、断ち切ってしまえばいいじゃないですか――」



 柵から解放された私は、危なげなく希望する大学に合格することができ、上京して春から新しい生活が始まりました。周りからは賛否両論ありますが、私は赤いリボンのついた可愛らしい服をよく着るようになりました。運命なんて自分で作れる、という想いで過去を誤魔化すために着始めたのですが、今では小指に残るリボン結びも私にしか見えないオシャレの一貫だと思えるようになりました。まあ、糸の先が宙ぶらりになって、想像以上にダサく見えるのが玉にキズですが。
 そんなある日、私はあの人に呆気なく出会いました。どうやら同じ大学だったようです。相も変わらず、ブラウンの美しい髪をなびかせ、服装はパンツルックであの時よりも大人びて見えます。彼女の指に、もう赤い糸はありませんでした。私と違って、結び目さえ残っていません。
 彼女も私の姿に気付いたみたいですが、特に気にすることもなく、まるで始めから会ったことがない赤の他人のフリをして、私と正面からすれ違おうとします。一瞬立ち止まってしまった私も、これで良かったんだと思い、再び歩みを進めようとします。そう思った瞬間、逆に彼女の足が止まりました。

「ちょっと、どうして泣いてんの!?」

「えっ?」

 戸惑いながら声をかける彼女に指摘されて初めて気付き、指で涙に触れた瞬間、名前のない想いは洪水のように溢れてきました。涙に嗚咽が混じり、自分の今の状況が理解できずに困惑します。でも、人通りの多い道で私が泣くものだから、彼女は私以上に困惑したことでしょう。あたふたしながらも、ひとまず人の少ない喫茶店まで案内してくれました。
 色々と気遣う声をかけてくれる彼女に、私は小さく一言だけ声を発します。

「右手を……右手の小指を見せてくれませんか?」

 一瞬躊躇いながらも、彼女は美しい右手を差し出してくれました。白く、綺麗で、何も飾るものがない、その右手を。
 私はその手に再び触れます。そして、私の小指から伸びる赤い糸を、その指に、手に、腕に、ゆっくりと巻きつけます。
 糸が見えない彼女からして見れば、とてもおかしな光景だったでしょう。でも、私はこうしなければいけないと思いました。
 
 たとえ、その糸がただの飾りだったとしても。

 たとえ、その糸が容易く解けてしまっても。

 たとえ、その糸が――――。

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プロフィール

ねっしー

Author:ねっしー
個人サークル『Next Nexus』で活動(予定)
元『それは割れません。』
絵描いたり、小説描いたり、数学やったり、日常のどうでもいいこと綴ったり。


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